カルピス

「カルピス飲む?」いつものように私は聞く。
そして彼の返事を待たずに作り始める。
彼専用のビア・ジョッキに氷は3つ、少し薄め、いつものカルピス。
横になってテレビを見ている彼に、ビア・ジョッキを手渡す。

僕は彼女からいつもの僕専用のビア・ジョッキを受け取ると、
すぐに口をつける。
これを飲んだら帰る。
もう何年も、僕達の間ではそれが決まり事となっている。
少し甘酸っぱいその液体を一息に飲み干し、僕は立ち上がる。
お別れのキスのあと、決まって彼女は「今度はいつ会える?」と聞く。
そして、返事を待たずに、「奥様によろしく」そう言ってドアを閉める。

僕は、生ぬるい空気の中を一人で歩きだす。

彼が帰ったら、すぐに私は食器を洗う。
部屋の隅々まで、掃除機をかけ、トイレとお風呂の掃除をし、
玄関の靴を並べ替えたら、着替えをして、化粧を直す。
それから、ビア・ジョッキを新聞紙で丁寧に包み、箱にしまいこむ。
少しの間ソファーでうたたねをし、男友達からの深夜の電話で目を覚ます。

そうして、私はいつもの生活に戻る。

1998